ご挨拶
脳梗塞は長年にわたって治らない病気と云われてきましたが、近年の治療法の開発に伴って治る病気へと様変わりしました。tPAを用いた血栓溶解療法は脳梗塞が起こってから4.5時間以内の患者に用いることで、患者さんの後遺症を減らすことが出来ますし、発症から治療開始までの制限時間をさらに延ばすべく、多くの試みがなされています。
しかし、制限時間が延びても、このtPA治療を受けられない患者さんのグループがあります。それは、朝目覚めた時に脳梗塞の症状に気づいた方たちや、意識障害などを伴うためにいつから症状が現れたかを伝えられない方たちです。tPA治療のルールは厳格で、副作用としての頭蓋内出血が増えるとの懸念から、制限時間を超えて治療を始めることは禁じられています。したがって、発症時刻が分からない患者さんは、現状ではこの治療を受けられません。
私たちが始めたTHAWS試験は、このような発症時刻不明の脳梗塞患者さんにもtPA治療を行えるようにするために、企画されました。MRI画像診断を駆使しておおよその発症時刻が4.5時間以内と考えられる発症時刻不明脳梗塞患者さんを選び出し、tPA治療と従来の内科治療の効果を比べます。同様の試験が海外でも行われており、それらと結果を併せて治療効果を調べる予定です。国内の40近い施設が参加し、製薬企業から試験内容への制約を受けない医師主導型研究として、また厚生労働省が認めた先進医療として、試験を進めています。
THAWSの正式名称は「THrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg」(アルテプラーゼ 0.6 mg/kgを用いた、急性睡眠中発症脳梗塞および発症時刻不明脳梗塞への血栓溶解治療)です。Thawは雪解けという意味を持つ英単語です。長らく雪に閉じ込められていた脳梗塞治療が、雪を溶かして進歩してゆくようにとの思いを込めました。着実に成果を出せるよう努めます。